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がん免疫治療とは

がん細胞の排除を担う免疫応答

◆私たちヒトに備わる異物排除のメカニズム、「免疫応答」

がんに対する免疫メカニズムの基本的な役割は、体内に発生したがん細胞を速やかに破壊して体外へ排除することです。このような働きを「免疫応答」と呼び、主に血液中を流れる白血球(好中球や、リンパ球といった様々な免疫細胞)がその役割を担っています。

ここでは、がんに対する免疫応答を以下の二つに分類して解説しましょう。

 

1)自然免疫:がんの発生初期に対応する免疫応答

がん細胞の発生を察知して、速やかに活動を始める免疫応答です。

主に白血球の一種である好中球や単球・マクロファージ、あるいはNK細胞(ナチュラルキラー細胞)がその活動の中心となって対応にあたります。その方法は、好中球や単球・マクロファージの場合、貪食(どんしょく)という作用によってがん細胞を丸呑みにして消化するスタイルがとられます。NK細胞の場合には、その細胞表面にあるセンサーをがん細胞に接触させて確認したのちに、速やかにがん細胞を破壊します。

中でも、「自然免疫」の興味深い特徴といえば、がん細胞をはっきり「がんと認識せず」に、瞬時の初期対応として(どちらかというと、大雑把に)がんを排除する点です。そしてもう一つが、数日間を経てがん細胞が成熟してしまうと、メカニズム的に破壊が困難となって次の「獲得免疫」へとバトンタッチされることです。

 

2)獲得免疫:成熟したがん細胞に対応する免疫応答

自然免疫による初期応答によってがん細胞の破壊に失敗すると、次に活動するのが「獲得免疫」と呼ばれる免疫応答です。主に、白血球の中でも強力なリンパ球集団であるキラーT細胞とヘルパーT細胞がその活動の中心を担い、マクロファージの一種である樹状細胞がその際の情報提供を支えます。

そして、この「獲得免疫」の興味深い特徴は、がん細胞をはっきり「がんと認識」した上で、確実にがん細胞を捉えて殺傷/排除に至らしめる点にあります。そのため、獲得免疫の始動は、成熟してがん腫瘍として育ったがん細胞の排除に絶対不可欠な免疫応答であると考えられています。

 

◆がん免疫治療の源流として君臨する「獲得免疫」

がんに対する免疫応答の基本的な役割は、体内にある無数の「正常な細胞」の中から速やかに「がん細胞」を見つけ出すことです。そして次に、強力な免疫細胞(リンパ球)によってがん細胞を破壊し、体外へと排除することです。

それでは、どうして免疫細胞(リンパ球)は、正常な細胞とがん化した細胞を明確に見分けることができるのでしょう。それは、細胞のがん化に先立って生じる遺伝子/DNAの突然変異に大きなヒントがありました。

その前に、遺伝子/DNAの役割について説明を加えましょう。遺伝子/DNAとは、それぞれの細胞の中でアミノ酸を繋げてタンパク質を合成するための設計図として働いています。つまり、正常細胞に備わった遺伝子/DNAは、常にアミノ酸から正常なタンパク質を合成しつづけることで、日々の細胞の成長を助けているのです。ところが、遺伝子/DNAの突然変異によって細胞ががん化してしまうと、もはやその細胞は正常なタンパク質を合成することができなくなってしまいます。そして、がん細胞の遺伝子/DNAは、常にアミノ酸から異常なタンパク質を合成し続けることで、がん腫瘍という細胞の塊を大きく成長させてしまうのです。

もうお分かりでしょうか。「獲得免疫」において活躍する強力なリンパ球集団は、正常細胞とがん細胞におけるタンパク質の違いを検知する、ある種の「目印」利用することで、正確にがん細胞を発見することができるのです。このように、「獲得免疫」は究極の免疫応答として、がん免疫治療における源流対策として君臨しているのです。

 

◆がん細胞の目印、「MHCクラスⅠ」

あらゆる細胞の表面には、獲得免疫によって「がん細胞を発見する」ために欠かすことのできない仕組みが備わっていました。それが、常に細胞の表面に掲げられる「主要組織適合性抗原複合体(MHC)」という、タンパク質の構造体です。そして、この構造体の中でも特に「MHCクラスⅠ」というタイプは、それぞれの細胞の情報(素性)をキラーT細胞に提供する識別マーカーの役目を果たしているのです。

例えば、体内を循環しているキラーT細胞は、正常な細胞に出会うとその細胞表面に掲げられたMHCクラスⅠの先端と接触し、その細胞に問題がないことを確認します。もちろん、その際にはキラー細胞も何らアクションを起こすこともなく、次の細胞へと移動していきます。

ところが、もし、出会った細胞が「がん細胞」であったなら、キラーT細胞はがん細胞表面のMHCクラスⅠの先端と接触することで、瞬時に「がん細胞だ」という判断を下します。そして、キラーT細胞は速やかに出会ったがん細胞を殺傷へと導いてしまうのです。

 

◆MHCクラスⅠの先端に載る「ペプチド」

なぜ、キラーT細胞は出会った細胞の表面にあるMHCクラスⅠと接触するだけで、「がん細胞だ」という情報を取得できるのでしょうか。

それは、MHCクラスⅠの先端部分の構造に秘密がありました。MHCクラスIの構造を解析すると、その先端部分は小さなタンパク質の断片(ペプチド)を載せるお皿のような形状が確認できます。そして、実際にそのお皿に載るペプチドは、それぞれの細胞が合成したタンパク質の断片に由来するものだったからです。

実際、正常な細胞のMHCクラスⅠのお皿には、正常な細胞が合成した「正常なペプチド」が載せられ、がん細胞のMHCクラスⅠのお皿には、がん細胞が自ら合成した異常な「がんペプチド」が載せられて細胞表面に掲げられるのです。

つまりキラーT細胞は、がん細胞表面のMHCクラスⅠの先端のペプチドと接触することで細胞のがん化を察知し、速やかにそのがん細胞を殺傷するという免疫応答を発動していたのです。

ちなみに、細胞のがん化に伴って合成される異常なペプチドのことを、「がんペプチド」と言います。中でも、がん細胞特有の遺伝子変異によって新たに出現したがんペプチド(がん特異抗原(TAA:Tumor Associate Antigen)のことを、別名「ネオアンチゲン(ネオ抗原:neo antigen)」と呼んでいます。

 

◆MHCクラスⅠの消失と、免疫疲弊

ところが、がんの病態が高度の進行がん/ステージⅣに近づくと、獲得免疫にとって重要なMHCクラスⅠにも新たなトラブルが生じ始めます。それが、MHCクラスⅠの消失(減少)です。そしてその要因が、多数の遺伝子変異によって細胞秩序を失ってしまうがん細胞の特性と、それに伴うがん細胞の老化性変化に見いだされたのです。

本来、正常な細胞は一定回数(およそ50回)の細胞分裂によって、老化という限界点に到達し、その後は速やかに体から排除されます(こうした細胞分裂の終結点を「ヘイフリックの限界」と言います)。

 

ところが、遺伝子/DNAの突然変異によって細胞秩序を失うと、がん細胞は限界点に到達しても細胞分裂が衰えず、それに伴う細胞機能にも著しい老化性変化が蓄積してしまいます。その結果、アミノ酸を基にしたタンパク合成によって生成されるMHCクラスⅠ+ペプチドの複合体も、徐々に消失する事態に陥ってしまうのです。

そのいっぽうで、長期間にわたってがん細胞と対峙した免疫細胞(リンパ球)にも、疲れ(免疫疲弊)の影響が色濃く現れはじめます。その結果、がん細胞のMHCクラスⅠ+ペプチドの複合体と相対するリンパ球の受容体や、もう一種類のMHC(MHCクラスⅡ+ペプチドの複合体)にも生成不全が生じ始めてしまうのです。

当然、このような状況を放置してしまうと、獲得免疫によるがん細胞の検出と破壊が困難になり、同時に関与した各種の免疫細胞(リンパ球)さえも、強烈な「免疫疲弊」の状態に陥ってしまいます。そして、ついには「獲得免疫」の機能も失われ、がん細胞は活発の度合いを増しながら末期がんへの道を突き進んでしまうのです。

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